2025年7月の掲示板

漆黒とは 
光を映す色のことだと (岩崎航(わたる))

詩人・岩崎航さんの詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』の中の言葉です。岩崎さんは三歳で筋ジストロフィーを発症し、その後も進行していきます。常に人工呼吸器を使いながらの生活の中から紡がれる言葉は、行き詰まった者に勇気を与える力強さ、苦悩する者に寄り添うやさしさ、わかったようなことは言うまいとする繊細さ、そしていのちの根源に触れるような奥深さがあり、折に触れ確かめています。もとの五行詩はこのような詩です。

青春時代と呼ぶには
あまりに
重すぎるけれど
漆黒とは
光を映す色のことだと  (『点滴ポール 生き抜くという旗印』)

同じ世代の青春を謳歌する周りの人と自分を比べてしまい、社会から取り残されたような孤絶感を感じたという岩崎さん。この自分のままで生きていても、未来がない、将来がないというところまで追い詰められ、自ら死のうと決意したと言います。

しかし岩崎さんは、絶望の中にあって生きることを選びました。人と比べて嘆いてばかりいるのではなく、病気を含めての自分を生きる。そのときやっと「自分の人生」を生き始めたと言います。岩崎さんの生きる意欲を支えたものとは何なのか。それを岩崎さんの言葉に垣間見ることができます。

その一つが「漆黒とは光を映す色のことだと」という言葉です。闇を光にしようというのではない。闇を闇のままであきらめるというのでもない。これまで闇であったけれど、それをただ闇ではすまさない、「光を映す色」にするというところに、私たちが困難の中を生きる大事なヒントがあるように思います。人として生まれたからには、人として生まれたからこそ知ることのできる深いものに触れたい、そして今生きるこのいのちを、どんな状況であっても私自身として、そこに光を照らして生き抜いていきたい。どんな闇の中にも無限の可能性があることを岩崎さんの姿から教えられます。

そしてそういう生き様を、身を持って示し、一生を全うしていった人が過去に無数におられたことを、仏教では「諸仏」がおられたのだと伝えています。諸仏を仰ぐ生活の中から、私たちは力をいただきます。それが念仏の生活として大事にされてきたのです。

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